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神戸地方裁判所 昭和51年(ワ)928号 判決

原告(反訴被告) 株式会社関西ヤマノビューテイメイト

右代表者代表取締役 澤近正夫

右訴訟代理人弁護士 香川公一

同 南部孝男

同 服部素明

同 三上孝孜

被告(反訴原告) 岡本由紀

右訴訟代理人弁護士 樫永征二

同 飯沼信明

主文

1.被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金一一三万三、四六〇円、およびこれに対する昭和五一年五月一三日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2.被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

3.訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。

4.この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

(以下、原告(反訴被告)を単に原告といい、被告(反訴原告)を単に被告という。)

(本訴について)

第一、当事者の求めた裁判

一、原告の本訴請求の趣旨

1.主文第一項と同旨

2.訴訟費用は、被告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、本訴請求の趣旨に対する被告の答弁

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の本訴請求原因

(一)原告は、肩書地において、化粧品の販売を業とする会社であり、被告は、昭和四九年一二月二〇日より原告から化粧品を須磨プレスセンター(略称須磨P・C)の名称で買受け、これをセールスマンに販売していた。

(二)原告は、被告の注文によって化粧品を昭和四九年一二月二〇日から昭和五一年四月三〇日まで、その代金は毎月二〇日締切、翌月三日払いの約定で化粧品を売渡し、昭和五一年三月二〇日締切までは代金の支払がなされてきた。

(三)然るに、原告は、昭和五一年三月二二日以後同年四月二八日まで化粧品代金合計金一一三万三、四六〇円を売渡してきたが、原告の再三の請求にもかかわらず支払いをしない。

(四)よって、原告は被告に対し、売掛代金一一三万三、四六〇円、及びこれに対する弁済期後である昭和五一年五月一三日から支払ずみまで商事法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、本訴請求原因に対する被告の答弁

本訴請求原因事実はすべて認める。

(反訴について)

第一、当事者の求めた裁判

一、被告の反訴請求の趣旨

1.被告は、原告に対し、金三三六万六、五四〇円及びこれに対する昭和五一年一一月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、反訴請求の趣旨に対する原告の答弁

1.主文第二項同旨

2.訴訟費用は被告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、反訴請求原因

(一)原告は、美容家訴外山野愛子の創案にかかるいわゆる「山野愛子どろんこ美容」に要する美容品類の卸売を業とする会社であるが、昭和五〇年二月二八日、原告・被告間で、原告は被告に右美容品類を継続的に卸売し、被告はこれを小売すること、被告は、毎月二〇日までに受領した商品の代金を翌月三日までに被告に支払うこと、契約期間は一年とするが期間満了一ケ月前までに当事者の一方から書面による解約申入れがない場合には自動的に更新されること、当事者は契約期間中であっても書面による三ケ月前の予告をもって解約出来ることなどを内容とする契約(以下、本件基本契約という。)をした。

更に、右契約の内容を具体的にいうと、被告及び被告と同じ立場にある者は各自の計算においてその営業をなしているが原告はこれらの者に「山野愛子どろんこ美容○○営業所」(後には「山野愛子どろんこ美容○○プレスセンター」)の名称を使用させ、かつ原告において用意した名刺を配布し、またこれらの者が雇用ないし使用する美容部員、販売員の氏名を登録させ、或は各月の売上実績表の提出などを要求し、更に定期的な営業所長(センター長)会議の開催、文書による販売方針の指示もひんぱんに行われ、これらの営業所の原告に対する従属性は顕著である。このように原告と被告間においては或程度長期的な継続的契約関係が予定されていたのであり、かかる場合においては、原告は営業所に対して継続的に商品を供給する義務を有するというべきである。

(二)そして、神戸市で右商品を扱う所は原告の直轄販売店一ケ所と被告の二ケ所しかなく、前者は専ら東部方面、後者は専ら西部方面を担当していたが、被告も順調に業績を上げ、毎月仕入価格金一〇〇万円ないし金一五〇万円の商品を売上げ、原告に対する代金支払も確実に履行していた。

(三)ところが、昭和五一年四月二一日、被告は原告に対し仕入価格合計金一〇三万〇、七〇〇円相当分の商品を発注したが、直ちに納品されるのが常であるのに原告は納品を渋り、再三再四にわたる督促に対して同月二八日までに仕入価額合計金一四万六、二九〇円の商品を納入したのみで、同月末頃、原告は被告に対し、その後の一切の納品を拒否するに至った。

(四)被告としては、これまで多くの得意先を開拓し、顧客より絶えず商品の注文を受けていたのに突然の納品停止、しかも全く理由の判らない原告の不法な措置により被告の営業はほぼ全面的に停止を余儀なくされた。なお、原告は今日に至るまで右突然の納品停止の理由を明らかにしておらず、また本件商品売買契約を解約ないし解約を予告する旨の意思表示もしていない。

(五)本件のような継続的商品売買ないし特約店契約にあたっては、売主は正当な理由なくして納品を拒否し、契約期間中において買主の営業継続を不能ならしめるが如き行為に及ぶことは売主として債務の本旨に従った履行を怠ったといわなければならない。

(六)被告は原告の右債務不履行により次の損害を蒙った。即ち、右取引打切り前過去六ケ月間の被告の売上総額は金一、〇四七万六、四八七円であるが、そのうち仕入価格総額は金六二九万三、五五三円、諸経費合計金九六万一、〇〇〇円であり、これを差引いた残高金三二二万一、九三四円が、被告の前記六ケ月間において得た利益となり、一ケ月平均金五〇万円を下らない。然るに、原告の納品拒否により昭和五一年五月から既に約六ケ月間営業不能となっており、また仮に、原告が今後直ちに解約予告をしたとしても解約の効力発生までに三ケ月を要するので、被告は得べかりし利益として少くとも月金五〇万円宛、九ケ月分、合計金四五〇万円を喪失したことになる。

ただ、被告は、右納品拒否にあったため原告に対して支払を一時保留していた売掛代金の残金一一三万三、四六〇円の債務を負担していたので、これを前記の如く相殺したので差引金三三六万六、五四〇円の損害となる。

(七)よって、被告は、原告に対し、金三三六万六、五四〇円とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五一年一一月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、反訴請求原因に対する認否

(一)請求原因第一項の事実中、原告が美容家山野愛子の創案にかかる所謂「山野愛子どろんこ美容」に要する美容品類の卸売を業とする会社であること、昭和五〇年二月二八日、原・被告間において本件基本契約を締結した事実を認める。

(二)同第(二)項について、神戸市で原告商品を扱うところは原告の直轄販売店一ケ所と被告の二ケ所であり、前者は東部方面、後者は西部方面を担当していたことを認める。被告の毎月の売上価格は不知。被告に対する代金支払が確実に履行されていた点は否認する。

(三)同第(三)項の事実のうち、昭和五一年四月二一日、被告が原告に対し商品を発注したこと、被告が同月二八日までに仕入価額計金一四万六、二九〇円の商品を納入したことは認めるも、その余の事実は否認する。

(四)同第(四)、第(五)項の事実は争う。

(五)同第(六)項の事実のうち、原告が被告に対し売掛残金一一三万三、四六〇円を有することは認めるも、その余の点は争う。

三、反訴請求原因に対する原告の主張

(一)原告の親会社株式会社ヤマノビユーテイメイトは山野愛子の考案にかかる化粧品を使用することによる美容法を右化粧品の販売と合せて広く宣伝・普及することを目的とするものであり、原告は関西における右目的を達成するために設立された子会社である。そして、原告は右目的を達成するため関西全域に亘ってプレスセンター(営業所のこと、以下、P・Cと略称する。)の配置を目指して来たが、現在においては、尼崎、姫路、寝屋川、高石、河内長野、新宮の各市、堺市の浅香山、初芝、堺北、及び神戸市須磨にP・Cを配置し、神戸市及び和歌山市には直轄営業所をもってP・C業務を行って来たものである。

而して、原告はP・C会議を統轄することによってP・Cに対する指導を徹底させ、これを受けたP・Cをして所属コンサルタント(セールス)を指導、統轄させ、もってヤマノ美容法の普及、宣伝、ヤマノ化粧品の販売並びに正しい使用法が一般顧客に行きわたるように指導を徹底するとともにヤマノ化粧品の販売利益を上げて来たものである。

このような仕組の中でのP・Cは、独立の商人としての身分を有しながらも直轄営業所に代って所属コンサルタントを統轄、指導するとともに自らもコンサルタントとしてヤマノ化粧品を販売し、且つヤマノ美容法の普及に努めなければならない義務を負うものである。

(二)従って、原告は、右目的を達成すべく、本件基本契約においても、被告主張の約定の外に、被告とP・C契約を結び次の如く約定した。

1.毎月の支払を遅滞なく行うこと

2.P・C会議には必ず出席すること

3.営業実績の報告を毎月提出すること

4.同業他店の商品を取扱わないこと

5.販売価格を守ること

6.会員の報告を出すこと

7.店頭販売をしないこと

8.その他、営業上の事務処理につき規定事項を遵守すること

而して、以上の各義務は、その性質上本件基本契約における本質的なものであり、被告主張の如き単なる中間卸売商と小売商との取引に過ぎないものではなく、組織法上の契約関係を主とし、これを前提として発生する具体的な取引法上の契約関係を合わせ内容とする混合無名契約である。

四、原告の抗弁、及び被告の主張に対する反論

(一)原告は、昭和五一年四月末日、被告に対し、被告において後記の如き、本件基本契約について約旨に反する事実があったので、直ちに、右契約の解除の意思表示をした。即ち、1. 毎月の支払を滞り勝であり、2. P・Cの会議に屡々欠席し、3. 営業実績の報告を全く出さない、4. ハリウッド化粧品の販売をし、5. 会員の報告を一部しかしない、6. 神戸サウナ等で店頭販売をした等の事実があったのであるが、P・C会議に出席し、コンサルタントの動向、顧客層の情勢を原告においても把握されるように報告をするとともに正しい美容法の研究に努めることが組織体における基本的義務であり、ましてや他社化粧品を販売することは決定的背信行為であり、被告のこれらの行為は重大なる義務違背であり原告の信頼を裏切る行為であるので、原告においては右契約の解除の意思表示をなしたものである。従って、被告の損害賠償請求は理由がない。

(二)被告は、原告主張の本件基本契約におけるいわゆる組織法的部分は独占禁止法二条七項四号に違反するものであるから被告においてこれに反する事実があったとしても債務不履行とならないと主張するも、本件基本契約は右規定の適用を考えることは出来ないものである。即ち、本件基本契約の組織的な性格から明らかなとおり、P・Cは機能的には支店に近いものであり、また、被告に対し原告以外の第三者との取引を禁止しても第三者としては自由に他の取引先を求め得べき関係にあるから同規定の規定する公正かつ自由な競争秩序に対し悪影響を与えるものではないのである。

なお、被告は「一店一帳合制」の主張をするのであるが、右は概念の誤用である。

そもそも一店一帳合制とは生産者が卸売業者の販売小売業者を限定し、小売業者の仕入先を一卸売業者に限定するという制度であって、これを本件について云えば、被告とその需要者の取引を拘束しているかどうかの問題である。然るに本件の問題は原・被告間の他社製品取扱禁止の問題である。

本件において原告が、被告が他社化粧品の販売を禁止しているのはヤマノ美容法の普及宣伝について専念義務の結果であり、右独占禁止法の規定の問題とは次元を異にするものである。

五、抗弁に対する認否及び被告の主張

原告主張の抗弁事実を否認する。

原告の主張によれば、債務不履行の内容として被告による他社化粧品の取扱いが挙げられているが、被告が原告との取引継続中に原告が販売する以外の化粧品を取扱ったことは皆無である。ただ、被告がヤマノどろんこ美容のセールスをするに当り顧客より通常美容の化粧品を求められることが屡々あったためどろんこ美容と競合しない化粧品について顧客へのサービスとして被告の弟訴外岡本由昭を通じてハリウッド化粧品を若干販売したことがあるに過ぎないが、この数量は僅かであり、このことは寧ろ原告に利益の結果を与えるものでこそあれ不利益を与えるものではなかったものである。

なお、原告と被告との間の取引関係を見るに、原告は被告に対してヤマノどろんこ美容の商品のみを取扱うこと、右商品の仕入先としては原告のみに限定することを要求しているものであるが、これは一種の排他的特約店契約であると共にいわゆる一店一帳合制といわれるものであると考えられ、このような取引形態が独占禁止法二条七項四号の「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること」に該当するおそれが強く、従って、仮りに、被告においてヤマノ以外の商品を取扱ったことがあり、或は原告主張のような事実がありとしても、右の統制自体が極めて不当なものであるから、被告が右に反したとしてもこれをもって信頼関係を破壊するに足る債務不履行ありと云うことは出来ない。

(証拠)〈省略〉

理由

一、本訴について

本訴請求原因事実については当事者間に争がなく、右事実によれば、原告の本訴請求は理由がある。そうすると、被告は、原告に対し、売買残代金一一三万三、四六〇円とこれに対する弁済期後である昭和五一年五月一三日から支払ずみまで商事法所定年六分の割合による遅延損害金の支払義務ありというべきである。

二、反訴請求について

(一)原告が美容家訴外山野愛子の創案にかかる所謂「山野愛子どろんこ美容」に要する美容品類の卸売を業とする会社であること、昭和五〇年二月二八日、原・被告間において、原告は被告に美容品類を継続的に卸売し、被告はこれを小売すること、被告は毎月二〇日迄に受領した商品の代金を翌月三日迄に被告に支払うこと等を内容とする契約(以下、本件基本契約という。)を締結した点については当事者間に争がない。

〈証拠〉並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告の親会社である訴外株式会社ヤマノビユーテイメイトは山野愛子考案にかかる化粧品を使用することによる美容法を右化粧品の販売と合わせ宣伝・普及することを目的とする会社であり、原告は関西地区における子会社である。原告は右化粧品の販売と右美容法の宣伝・普及のためP・Cを養成・配置して来たこと、原告は、昭和四九年当時においては、P・Cを関西地区に十二、三ケ所、直轄営業所を神戸市及び和歌山市に設置していたこと、そして、原告は、P・Cにヤマノ化粧品を卸売するとともに、P・Cをしてその所属のコンサルタント(セールスのこと)をしてヤマノ化粧品の販売及び山野愛子美容法の宣伝・普及をさせるとともに、P・C自身をして化粧品の販売及び美容法の宣伝・普及させるという販売組織を作るとともに、販売方法も店頭販売を禁止し、P・C或はコンサルタントをして直接訪問販売せしめることとし、P・C及びコンサルタントには他店商品の販売を禁止し、P・Cには、1. P・C会議に出席すること、2. 営業実績の報告を毎月提出すること、3. 同業他店の商品を取扱わないこと、4. 販売価格を守ること、5. 会員の報告をすること、6. 店頭販売をしないこと、7. その他営業上の事務処理につき規定を守ること等を定め、P・Cになろうとする者に対して右事項の遵守することを約せしめた(以下、P・C契約という。)こと、右の如くP・Cとなった者とは同時にヤマノ化粧品についての継続的取引契約を結ぶのであるが、原告はP・Cをして、山野愛子どろんこ美容○○プレスセンター、或はこれを略称して山野愛子どろんこ美容○○P・C、或は山野愛子どろんこ美容○○営業所と称せしめ、P・C会議を開催してP・Cを統轄し、P・Cにはコンサルタントを掌握させてヤマノ化粧品の販売網を拡張するとともにヤマノ美容法の普及・宣伝を行って来たこと、

被告は、昭和四八年一二月二〇日、原告との間においてP・C契約を結び前記1ないし7の所謂P・C遵守事項を守ることを約するとともに原告の取扱うヤマノ化粧品の販売について継続的取引契約を結んだこと、そして、前記の如く、昭和五〇年二月二八日本件基本契約が成立したことは当事者間に争がないところであるが、この契約は後記認定の如く、当時被告の支払が悪かったので原告が、被告に保証人とし訴外岡本正昭を付けさせた際、商品売買基本契約書(販社対プレスセンター)と題する書面(乙第一号証)を作成するとともに前記P・C契約を併せ確認するものであったこと、以上の事実が認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、本件基本契約においては、原告は、被告の注文に応じて原告の発売するヤマノ化粧品類等を継続的に供給販売することを約すると同時に被告においてもP・C契約にもとづき前記P・Cとしての義務を遵守することを約したことが認められる。

(二)〈証拠〉によれば、昭和四九年一二月二〇日以降、被告は須磨営業所或は須磨P・Cと称し、神戸市の西部方面担当し、原・被告間においてヤマノ化粧品等について継続的取引がなされるとともに、被告は山野愛子美容法の宣伝・普及に努めて来たが、原告は、被告に対し、昭和五一年四月末日以降右商品の納品を一切拒否したことが認められるところ、原告は、同月末日、被告に対し本件基本契約を解除した旨主張するので判断する。

月別

商品納入額

(各月二〇日締切現在(円))

差引残額

(上記締切現在(円))

昭和五一年一月分

七三万〇、三六五

九五万〇、四六〇

〃二月分

八九万七、八八〇

八九万六、〇八〇

〃三月分

一四七万四、四一三

一四七万四、四一三

〃四月分

九八万七、一七〇

九八万七、一七〇

〈証拠〉を綜合すると、

1.前記の如く、原・被告の取引は昭和四九年一二月二〇日から始まったのであるが、被告の支払状況は悪く、遅滞し勝ちであったので、昭和五〇年二月頃、原告において商品を引き揚げに来たが、当事者間で話し合いの結果契約書を作成し、被告において保証人を入れるということになり、前掲乙第一号証の通り契約書を作成するとともに被告の保証人として岡本正昭がなり取引を継続することになったこと、そして、再び、同年一一月末頃被告の支払状況が悪くなったので原告においては納品を停止し原告においては保証金を要求したが結局その話し合いはつかないまま取引は継続されたが、昭和五一年一月以降の取引及び支払遅滞の状況は次のとおりであったこと、

このように被告の支払が遅滞し、その後、原告は同年四月二四日から同月二八日までの間において金一四万六、二九〇円相当の商品を供給した後、本件供給停止をしたこと、

2.被告はP・C会議には欠席することが多く、P・C間の協調性にも欠け、他のP・Cよりも原告に対して苦情が出ていたこと、被告には会員が約一〇九名いたのであるが原告に対する会員報告は約その半数程度であること、営業報告書も殆んど出すことなく、また、神戸サウナ等において店頭販売をしたこと等P・C契約に違反する事項が多く、前記のとおり支払状況が悪かったのであるが、被告の営業成績の方は可成りであったので原・被告間の取引は継続されて来たが、昭和五一年四月頃、原告は、被告が、被告の弟訴外岡本由昭とともに他店商品であるハリウッド化粧品を取扱っていることが判明したので、同月末日、本件基本契約を解除すべく被告の須磨営業所に電話したところ、同事務所で一緒に仕事をしている前記岡本由昭において、同営業所の責任者である旨述べたので、原告は同人に対して本件基本契約を解除する旨を意思表示したこと、そして、前記商品売買基本契約書第一五条によれば、売買代金の支払遅滞その他被告の財産状態が悪化した場合においては無催告にして契約を解除しうる旨の特約が存すること、以上の事実が認められ、これに反する被告本人尋問の結果は措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、原告の本件基本契約解除の意思表示は被告に昭和五一年四月末頃到達したことが推認し得るところである。そこで、本件基本契約の解除が有効であるかどうかについて考えると、およそ、期間の定めのない継続的売買契約においては、供給を受ける者に著しい不信行為、或は販売成績の著しい不良等取引関係の継続を期待し難い重大な事由の存する場合には供給をなす者において一方的に解除することができるものと解すべきところ、

右事実によれば、被告の支払状況が悪く、これに対応して原告は屡々納品停止を行って来たが、本件納品停止前の昭和五一年四月二〇日締現在における未払額は金九八万円余りあり、この額は、被告の信用を顧慮しても、従来の被告支払状況から見て決して少ない額といえない点、そのうえ、被告においてはP・C契約に違反する所為が多々あり、殊に他店商品であるハリウッド化粧品を取扱っていた点を考えると、原・被告間の信頼関係が破壊されたものというべく、これらの事情を総合すると本件取引関係を継続し難い重大な事由があることが認められ、これに前記即時解除の特約を併せ考えると本件解除は有効というべきである。被告は本件基本契約は排他的特約店契約であるとともにいわゆる一店一帳合制といわれるものであり独占禁止法二条七項四号に該当するおそれが大であり、従って、ヤマノ以外の商品を取扱った事実等があるとしてもこれをもって債務不履行ありと云うことは出来ないと主張するも、一般に、相手方が自己の競争者から商品等の供給をうけないことを条件としてこれと取引することは、それ自体違法でなく、或る事業者においてかかる競争方法をとったとしても、他の同業者にとって或る事業者と取引あるものを除外してこれに代るべき取引の相手方を容易に求めることが出来る限り他の同業者はこれとの取引を通じて価格、品質、数量、サービス等による本来の競争によりその市場への進出は妨げられないところであるから、かかる競争方法は他の業者に対して脅威となるものではなく、結局において公正な競争を妨げるものとは云い得ないところ、これを本件について見るに、前記認定事実によれば、原告の経営規模から見れば原告が被告との契約が排他的特約店契約であるとしても他の同業者にとっては容易に取引の相手方を求められる状況を作出され得るものと考えられ得たのであり、これにより本来の競争による市場進出が妨げられるものとは認められず、他にこれを認めるに足る証拠はなく、従って、被告のこの点の主張は理由がなく、また、いわゆる一店一帳合制とは、生産者が卸売業者の販売先を限定し、小売業者の仕入先を一卸売業者に限定する制度であり、それは、生産者において、本来卸売業者において自由に決定さるべき販売先の選択を、競争を阻害するおそれのない特別の理由がないのに制限して取引するものであるが、これを本件について見るに、本件基本契約は原・被告の契約であって、被告に対して他人商品の取扱を禁ずるに止まり、被告の取引先を制限するものではないからいわゆる一店一帳合制というものには当らないというべきである。この点の被告の主張は独自の見解にもとづくものであり採用できない。原告の抗弁は理由がある。

以上によれば、被告の反訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、被告の反訴請求は棄却さるべきである。

三、よって、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 住田金夫)

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